体の飛躍と、心の飛躍
今日は、生まれて初めて雪上でバックフリップを飛ぶみなさんを指導させていただきました。
ほんとうに初めての大人一人と、ほぼ初めての小学五年生二人です。
雪でフリップを飛ぶという行為には飛躍があります。文字通り、空中を飛ぶという飛躍だけでなく、心の飛躍です。
トランポリンなら四分の一回転や四分の三回転が可能です。高飛び込みなら二分の一回転も可能になります。そしてウォータージャンプなら、恐いし失敗したら痛いけれど、『どこから落ちても大丈夫』 という安心感があります。しかし雪の上では、一回転は一回転しなければいけません。中間は存在しないのです。
私事になりますが、生まれてはじめて雪で一回転した時のことを、今でも良く覚えています。宮城蔵王スキー場で、青山学院大学フリースタイルスキー部の合宿でのこと。コーチは長谷川先生で、現在フリースタイルスキーのジャッジやTDとして活躍している塩津君や親友の香月君が一緒でした。
もっとよく覚えているのは、生まれて初めて雪で二回転したときのことです。
当時はウォータージャンプなどなく、一回転したら二回転する時代でした。命がけで二回転した選手たちも何人か知っています。
その一人の方が初めて二回転する時、わたしは一緒に練習していました。彼は、日本で初めて前方宙返り二回転を成功させた清水康久さんです。わたしの前の全日本総合チャンピオンにあたる方です。
彼は初めてトライする時、わたしにこう言いました。
「角皆、オレが死んだら、ここに埋めてくれ」
ジャンプ台を造るため掘った雪の穴を指さして言ったのです。
冗談ではありません。まさに神風特攻隊でもあるかのように、決心し、覚悟を決め、日本初の技に挑んだのです。
わたしはそこまで勇気がなかったこともあり、トランポリンや高飛び込みでイヤというほど二回転を練習しました。
トランポリンで連続して二回転が飛べるようになるまでやりましたし、感覚だけでどこにいるかがわかるくらいまでトレーニングしました。雪上で初めて二回転にトライしたとき、トランポリンでは三種類のフィリフィス(ひねりの入った二回宙返り)を飛べました。トランポリンさえ良ければ、今でも七種類のフィリフィスを飛べるでしょう。
初めて二回転にトライした日。朝早く、圧雪車を自分で運転してジャンプ台の雪を盛りました。朝食を食べてからそのジャンプ台を整え、飛べるように整備するのに約三時間。できあがったジャンプ台で何度か一回宙返りを飛んで、いよいよ二回転にトライする時が来たのです。昼すぎくらいでした。
一人で練習していたので、スキー場の事務所にいる支配人に、「時々双眼鏡でジャンプ台を観て下さい」 と伝えてありました。
「のびていたら、助けに来て下さいね」 とも…。
二回転を飛ぼうと決心したものの、ジャンプ台の上で三十分以上もスタートできませんでした。
『足がすくむ』 というのはあれを指すのでしょう。
何度もなんども決心し直すのですが、スタートできませんでした。
今日指導した小学五年の女の子も、わたしと同じ気持ちを味わったはずです。
ジャンプ台の上でスタートしようとするのですが、足がすくむのです。
彼女のウォータージャンプでのバックフリップを観ていることもあり、わたしはこう叫びました。
「ウォーターと同じだよ。ウォーターだと思えばいい」
決心し直して、スタートしようとしますが、彼女はふたたび止まってしまいます。
「ジャンプ台にまっすぐ入れば、ぜったい大丈夫。できるから」
そう言いながらも、わたしの心の中には不安がよぎります。
「もしスピードが恐くてプルークしてしまったら…」
スピードが足りなければ回転が足らず、危ない落ち方をします。
「もし恐くてテイクオフができなかったら…」
ジャンプの高さが足りず、これも危ない落ち方をします。ひどければ、ジャンプ台に頭をぶつけることもあります。
しかし、わたしはこう声をかけ続けます。
「ウォーターと同じに飛べば、ぜったいに大丈夫だから」
首をかしげていた彼女の顔がまっすぐになりました。今度はスタートすると感じました。
「大丈夫だよ!」
そして、ついにストックで体を押しました。
ちょうどいいスピード。そしてまあまあのテイクオフ。
大声でわたしは叫びます。
「着地を観て!」
彼女は着地で自ら少し座り込み、背中を少しだけタッチダウンしました。
「立てるって、ぜったい楽に立てるジャンプだよ。もう一度だ!」
今日トライした三人は、誰もがこうした葛藤を感じたはずです。『大人だから出来る』 などという世界ではありませんから。
何かをやりたいと思い、それに向かっていくら努力しても、どこかで心と体の跳躍が必要になります。
エアほど、それを如実に感じられるスポーツも珍しいでしょう。
幸いなことに今日は三人とも、練習が進むにつれて着地に成功。素晴らしいバックフリップを見せてくれるようになりました。
こうした高難度な技を教える時、ほんとうはドキドキものなのです。
みんな以上に、じつは自分が緊張しているかもしれないほど…。
そして、これでもかというほど選びに選らんで、言葉を投げかけているのです。
今日はバックフリップを教えるというだけで、朝からとてもピリピリしていました。
でも、そんな苦労も、素晴らしいジャンプを観ると、一瞬で吹き飛んでしまいます。
みんな、今日はほんとうにおめでとう!
よかったね。
これから少しずつ、もっともっと良くしていこう (^O^)/
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